柴犬標準
柴保の「柴犬標準」は、日本犬保存会制定(昭和9年)の「日本
以下は、天然記念物柴
本質と表現:きつく、するどく、ずぶとい気迫を持ち、しかも、すなおで純情な性質のために、飼い主にはあくまで忠実であるが、敵に向かっては、生命をかけてたたかう習性をもっている。大昔、大自然のきびしい世界で、猟犬として生き残っただけに、乾燥度が高く、原始的で素朴で野生犬らしく、ぐっとしまったスキのない力強い体構と、恐れを知らぬ態度、その感覚はきわめて鋭敏、動作もするどく敏捷、歩行する姿は軽快で弾力性に富み、品位のある顔貌をもち、いつもキビキビと疲れを知らずに活動する、小さいが強い、飼い主想いの愛すべき小型犬である。
外貌:雄と雌の相違点は明らかで、体軀は人為を加えずに均整を得ていて、素朴に美しく、しかも力強く、まとまっており、骨格は緊密でゆるぎなく、筋や腱は力強く、見事に発達している。いずれも緊張時には、平時よりも胴が多少つまって見える。体高は雄が39.4cm、雌は36.4cmを中心に上下1.5cmまでの範囲のものが標準である。
耳:顔貌にふさわしい大きさで、内耳線は真直ぐで、外耳線はやや丸みをもち、平板でない三角形で、適当な厚さをもち、頭の頂点の高さから、やや下位の左右から、わずかに前傾ぎみであるが、力強くぐっと立っていて、気迫の強さと、聴覚の鋭さをあらわしている。
眼:ほぼ三角形で、外眥あがりぎみで、下瞼は直線にちかく、眼球が沈んで見え、虹彩は濃い茶褐色をしているために、つねに力強く、鋭く、しかも沈着な良性をあらわしている。
口吻(歯牙):鼻梁は真直ぐで、吻は適度に太く、長く伸びているが、鋭い感じが出るように十分しまっており、鼻鏡は濃く、適度の大きさで強さをあらわし、唇の色素は濃く、横から見た上唇の線は、やや丸みをもちながら、しかも力強く、ひきしまっており、歯牙は適当に大きくて、歯形は食肉動物の特徴をもち、強健で、咬み合わせが正しい。
顔と頸:額は広く、盛り上がった感がなく、すっきりと品位にとみ、額段は深すぎず、その幅も適度で、頬は発達して均整のとれた顔貌に強さをもたせ、頸は太く力強く盛り上がっていて、後頭部が発達しているため、たくましい。
前肢と後肢:前肢はたくましく、肩胛骨が適度に傾斜して発達しており、下膊は真直ぐにクセなく伸び、̪趾はよくまとまり、堅くしまっている。後肢は力強く踏んばっており、飛節は強靭で、適度な角度をもっている。
胸と腹:胸は深く発達していて、肋は適度に張っており、前胸が発達していて力がこもっているので、強壮な内臓を包蔵していることを思わせ、腹は後部へ向かってしまっており、「巻き腹」とか「舟底形」といわれ、緊密感と乾燥度をたかめ、よく安定した体構となっている。
背と腰:背は真直ぐで、強健であることを示し、腰は強く適度にしまっており、よく発達した頭や前胸に調和している。
尾:背線より少し下から出ており、太く、力強く、巻尾または差尾をしており、その長さは飛端をこさない。尾形による優劣はないが、体構によく調和していて美しく、しかもクセがないので、動作に応じて、すなおに変化するために、疾走するときでも速力をさまたげない。
被毛:表毛(剛毛)は太く、かたく、真直ぐでクセなく、裏毛(綿毛)は細く、やわらかいが、木綿の綿のようによく密生し、尾毛は長く、頸毛と尻毛とはやや長く、背毛はわずかに長く、ともによく開立している。各部の表毛も、密生した綿毛のために寝た感じでない。毛色は、赤、黒、胡麻、虎、白などがあるが、表面が濃く、下に行くにしたがって淡くなり、根本はほとんど白に近く、いわゆる「根白」、または「二段毛色」とか、「三段毛色」といわれている。また、首、四肢、胸、腹、尾などの「裏側の毛」は頭、顔、頸、背および尾や四肢の「表側の毛」に比べて、うすくなっていて「裏白」となり、原始的な動物らしい色調をしている。
= 『柴犬研究六十年』(中城龍雄著)320ページ目より引用